純粋を求める。毒を求める。

漫画やアニメ、小説に欠かせない要素の一つがキャラクターである。

我々はキャラクターに何を求めるのか?

キャラクターのどのような部分に心惹かれるのかで、

人間は二種類に分けられると思う。

「純粋を求めるタイプ」と「毒を求めるタイプ」の二種類である。

 

「純粋を求めるタイプ」は、

高潔、一途、美しさ、美徳をキャラクターに求める。

自分自身が淀んだ存在であるからこそ、

淀みなき美しさに憧れる人達である。

人間の淀みなき美しさが、

人間の本当であって欲しいという祈りがある。

 

 

「毒を求めるタイプ」は、

人間臭さ、複雑、醜さ、欠点をキャラクターに求める。

人間の淀みを見て、リアリティーを感じ、

人間の本当を見た気になって、満足する人達である。

どちらかというと、私は毒を求めるタイプである。

 

 

こっからはグダグダと書くので、

そういうの読みたくない人はここまで。

読んでくれてありがとう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

具体的に、ありがちな物語を挙げて考えてみようと思う。

魔王を討伐する勇者の物語を考えてみた。

シチュエーションを説明するのに前置きが長くなってしまった。

悪しからず。

 

怒号。嗚咽。燃える家屋。鉄の味。

魚が腐ったような死臭が全身に纏わりつく。

正義も悪もない。ただひたすら敵を切ってきた。

 

勇者は何のために戦っているのか分からなくなった。

勇者は、久しぶりに故郷に帰りたくなる。

故郷に帰り、旧交を温める。

大きくなった幼馴染のヒロインとも再開する。

勇者はこの人たちの幸せのために戦っているのだと再認識する。

 

翌日早朝、勇者は誰にも気づかれないように、静かに故郷を出て行こうとする。

それに気づいた幼馴染のヒロインが追ってくる。

幼いころ、勇者はヒロインをこの村に一人残して旅立っていった。

前回の旅立ちでは、ヒロインは勇者が好きであったが、

思春期であったため、恥ずかしくて告白できなかった。

ヒロインは何らかの事情により勇者を追うことができない。

(ヒロインは戦争で夫を亡くしており、幼い子供が一人いる。

勇者と再会して、勇者を未だに愛していることを再確認する。

という展開を考えたかが、この時点で毒寄りなので止めた。)

 

ここで、勇者を見送るヒロインに何を言わせたいか?

 

純粋を求めるタイプだったら、

「わたくしは、ずっとあなたをお慕い申し上げておりました。」

「お体には気を付けて。」

「風邪を引かないようにマフラーを編んで来ました。」

「いつまでも、お待ちしております。」

「待つことが私の戦いです!」

的なことを言わせたいだろう。

自分の身を顧みない一途さが好みなのだと思う。

おそらく、勇者は自分の決心を周りに伝えずにいた、

にもかかわらず、それに気づいて、マフラーを編んでくれたのもポイントが高い。

(マフラーって一日で編めるものなのか……?)

 

毒を求めるタイプだったら、

「どうして、私はあなたを愛してしまったの!」

「愛さなければ、あなたが居ない時間を悲しむことも無かったのに!」

「それでも、私はあなたを愛してしまうのだわ!」

「だから絶対に帰って来て!」

的なことを言わせたいだろう。

出発する勇者を差し置いて、

自分のことばかりであるヒロインに人間味を感じる。

毒を求める人間にとってはセリフの言い方も良い。

愛への疑問と、苦しみながらも愛そうとする強い意思。

この二つをを感じさせてくれるのでポイントが高い。

 

 

 

勇者一行はついに魔王に戦いを挑む。

次々と、魔王の凶刃に死んでいく仲間たち。

残るは、勇者と戦士だけになった。

ちなみに、戦士はヒロインの父親であるという設定。

ラストで、戦士は勇者を庇って死ぬという展開になるとする。

 

 

戦士をどういう風に死なせるだろうか?

 

 

純粋を求めるタイプは、

キャラクターが、高潔に死んでいくのが好きである。

 

純粋を求めるタイプはこんな感じになるのかなーと思う↓

 

戦士の胸には穴が空いていた。

鎧は血だらけである。

「ここまでお前の為にと思って頑張ってきたが、ダメみたいだな。」

戦士は、そのギラギラと光った眼を勇者に向けた。

「この国を頼んだ……!」

血まみれの手が虚空に伸びる。

勇者はその手をぎゅっと握り返してやる。

「お前の命は絶対に無駄にしない!」

戦士はにやりと笑ったかと思うと、ごぼっと血を吐いた。

戦士の手がするりと勇者の手から零れ落ち、瞳から光が消えた。

 

 

毒を求めるタイプは、

死にゆく瞬間に、

人間の本当が見えるのが好きである。

 

毒を求めるタイプはこんな感じになるのかなーと思う↓

 

戦士の胸には穴が空いていた。

「俺はもうダメだ。」

戦士はぎゅっと目をつぶったかと思うと、

鬼気迫る顔で勇者を睨みつけた。

「お前の為に、俺たちは死ぬんだよ!」

血まみれの手で勇者の肩を万力の様な力でぐいっと引き寄せた。

「だから、お前にはこの国を治める責任がある!俺たちの為に!」

勇者は戦士の手の上に自分の手をかざした。

「後のことは俺に任せろ。お前の娘も俺が面倒を見る。安心しろ。」

戦士ははっと何かに気づき、遠くを見つめて、自嘲気味な笑みを浮かべた。

「ああ、嫌だな。もう少し生きていたいと思ってしまうよ。」

その瞬間、瞳から光が消えた。

 

 

私はバランスが大事かなーと思っている。

純粋と毒どちらかが欠けても嘘になる。

また、どちらかの濃度が高すぎても嘘になる。

 

現実に高潔な人間などほとんどいない。

むしろ、人間という存在が高潔ではないからこそ、

高潔なキャラクターを描いた作品が売れるのである。

 

また、現実の人間に複雑もくそもない。

殆どの人間は、刹那的に行動している。

国語の授業でやるような、

こういう心情だったからこういう行動をとったという因果関係が成立するのは、

現実世界では稀である。

また、相手や場によって、いくつもの顔を持つのが普通の人間である。

人間はとても不確かな存在だと思う。

人間に本当などというものはないかもしれない。

 

普通の人間は、並外れた高潔さも複雑さも持ち合わせていない。

だから、純粋も毒も濃すぎると嘘に見えてしまう。

 

純粋と毒の配分をしっかりと制御すべきである。

純粋も毒も少なめにして、あっさりめに仕上げるのか。

あえて純粋や毒の濃くして、こってりめに仕上げるのか。

私はラーメンもキャラクターもあっさりめが好きである。

こってりしたキャラクターを見ると、疲れる。

 

個人的には、読者や視聴者がしっかり考えないと、

純粋と毒が見えないようなつくりにしてある作品が好きである。

刹那に一瞬現れる本当が好きである。